OpenFOAM(オープンフォーム)とは?特徴と使い方を解説

流体解析という言葉を聞いたことはありますか?
空気や水の流れ、熱の伝わり方、さらには化学反応まで、私たちの身の回りにある様々な現象をコンピュータでシミュレーションする技術です。
この流体解析の世界で、近年特に注目を集めている強力なツールが「OpenFOAM」です。
今回は、OpenFOAMの基礎から応用まで、その全貌を徹底的に解説していきます。
OpenFOAMの核心:その特徴と魅力
OpenFOAMという名称は、「Open source Field Operation And Manipulation」の略称であり、その名の通り、数値解析開発や数値流体力学を含む連続体力学の前後処理に特化したC++製のツールボックスとして提供されています。
このソフトウェアは、GNU General Public License (GPL) バージョン3以降というオープンソースライセンスの下で公開されており、誰でも自由に無償で利用できます。
そのルーツは1990年代にイギリスのインペリアルカレッジで開発が始まり、当初Fortranで書かれていたコードが、その後オブジェクト指向のC++に書き換えられました。
2004年12月にOpenCFD社が設立された際に「FOAM」という商用コードがオープンソース化され、「OpenFOAM」と改称されたのです。
現在では、OpenFOAM財団とESI社のグループ企業であるOpenCFD社がそれぞれ独立したバージョンをリリースしており、世界中の研究機関や企業で活用されています。
スーパーコンピュータ「富岳」にもインストールされているほど、その性能と信頼性は高く評価されています。
OpenFOAMがここまで広く普及しているのには、いくつかの理由があります。
まず、大規模並列計算にライセンス制限なく対応できる点です。
多くの商用ソフトウェアでは、並列計算を行う際にプロセッサ数に応じた高額なライセンス費用が発生しますが、OpenFOAMはオープンソースであるため、この制約を受けません。
これにより、従来の計算では時間的・コスト的に難しかった大規模なシミュレーションも、現実的な範囲で実行することが可能になります。
次に、高い拡張性による自由なカスタマイズが可能であることです。
OpenFOAMはC++のクラスライブラリとして実装されており、そのソースコードは高度に抽象化され、再利用性が高いため、新しい物理モデルの追加や既存のソルバーの改良が比較的容易に行えます。
例えば、流体分野に留まらず、電気化学反応のような他の分野の物理モデルを実装した実績も報告されています。
これにより、特定の課題に特化したシミュレーションシステムを構築するといった、柔軟な対応が実現できるのです。

そして、OpenFOAMは流体ソルバーをはじめとした豊富な機能を備えています。非圧縮性・圧縮性の熱流体解析、多相流解析、燃焼解析、粒子追跡計算、応力計算など、多様な物理現象を扱うための標準ソルバーが多数用意されています。
さらに、メッシュの移動変形や自動細分化といった複雑な現象を扱う機能も充実しており、乱流モデル(RANS、LES、DESなど)、輻射、浮力、化学反応なども幅広くサポートしています。
OpenFOAMを使いこなすための基本ステップ
OpenFOAMは、基本的にコマンドラインからの操作が中心となります。初めて利用する方にとっては少し敷居が高く感じられるかもしれませんが、慣れてしまえばその柔軟性と効率性の虜になるでしょう。
OpenFOAMの解析ケースは、特定のディレクトリ構造の中に複数のファイルとして格納されます。主要なディレクトリは「constant」「system」「時刻ディレクトリ」の三つです。
- constantディレクトリ: メッシュ情報(polyMeshサブディレクトリ)や物質特性値(transportPropertiesなど)が格納されます。
- systemディレクトリ: 解析の手順に関するパラメータ設定が記述されます。これには、計算の開始・終了時刻、時間ステップ、データ出力のタイミングを制御する
controlDict、解析に使用される数値スキームを記述するfvSchemes、方程式のソルバーや収束許容誤差などを設定するfvSolutionなどが含まれます。 - 時刻ディレクトリ: 各物理量フィールド(速度Uや圧力pなど)のデータファイルが格納されます。初期条件は通常「0」または「0.000000e+00」という名前のディレクトリに配置されます。
これらのファイルは、特別なGUIを介さずに、テキストエディタで直接編集することが可能です。OpenFOAMでは、直感的に理解しやすいキーワードを用いた辞書形式で入出力を行うため、ファイル内容の把握も容易です。
メッシュの生成は、流体解析における最初の重要なステップです。OpenFOAMには、主に二つのメッシュ生成ユーティリティが付属しています。
- blockMesh: シンプルな直方体ブロックからなる構造格子メッシュを生成します。ブロックの辺は直線だけでなく、円弧やスプラインも指定でき、セルを特定の方向に勾配させることも可能です。2次元問題を扱う場合は、対象としない次元に垂直な境界に「empty」という特殊な境界条件を指定することで、3次元メッシュを2次元として扱えます。
- snappyHexMesh: STL形式の三角表面形状データから、複雑な形状の非構造六面体格子メッシュを自動生成します。初期メッシュを繰り返し細分化し、表面にスナップさせることで形状を形成します。レイヤーの追加やメッシュ品質の制御も柔軟に行えます。

メッシュが生成されたら、ソルバーの選択を行います。OpenFOAMには、流体の種類や現象に応じた多様な標準ソルバーが用意されており、ポテンシャル流れ、熱流体解析、多相流、燃焼、固体応力解析など、幅広い問題に対応できます。例えば、非圧縮性層流にはicoFoam、非圧縮性・乱流の非定常解析にはpimpleFoam、混相流解析にはinterFoamがよく用いられます。
そして、解析領域の境界に境界条件を設定します。流体の流入・流出、壁面での挙動、温度、圧力など、現実世界の条件を適切に反映させることで、精度の高いシミュレーションが可能になります。これらの条件は、systemディレクトリ内の各設定ファイルに記述していきます。
計算が終了すると、後処理として結果の可視化やデータ抽出を行います。OpenFOAMは、オープンソースの可視化アプリケーションであるParaViewと連携するためのparaFoamユーティリティを提供しています。これにより、計算結果を3Dで視覚的に確認できるほか、圧力分布、速度ベクトル、温度場などを詳細に分析することが可能です。また、sampleユーティリティを使って特定の線上や平面上のデータを抽出し、グラフ描画ソフトウェア(gnuplotなど)でプロットすることもできます。計算の進行状況や収束性を確認するためには、foamLogスクリプトを利用して残差やクーラン数などのデータを抽出し、グラフ化するといったモニタリングも有効です。
実践!OpenFOAMによる具体的な解析手順
ここでは、OpenFOAMの基本的な解析ワークフローを、代表的なチュートリアルケースである天井駆動キャビティ流れ(cavity)を例に見ていきましょう。これは、上部の壁が移動することで内部の流体が循環するシンプルな非圧縮性流れのモデルです。
まずは、作業環境の準備から始めます。仮想環境を使用する場合は、Oracle Virtualboxをインストールし、配布された仮想マシンアプライアンス(.ovaファイル)をインポートしてください。これにより、OpenFOAMが動作するLinux環境を手軽に構築できます。仮想マシンが起動したら、**QTerminal(端末)**を開いて作業を進めます。
- チュートリアルケースのコピーと移動 まず、OpenFOAMのチュートリアルディレクトリから
cavityケースを自身の作業ディレクトリにコピーします。runコマンドは、作業推奨ディレクトリである$HOME/OpenFOAM/${USER}-2.3.0/run(使用中のバージョンによって異なります)に素早く移動するためのエイリアスです。$FOAM_TUTORIALSはOpenFOAMのチュートリアルケースが格納されている環境変数です。 - メッシュの生成
cavityケースのディレクトリ内で、以下のコマンドを実行してメッシュを生成します。 - メッシュの確認 メッシュが正しく生成されたかを確認するために、後処理ツールを起動します。 これにより、ParaViewが起動します。ParaViewのウィンドウが開いたら、左側の「Pipeline Browser」で
cavity.OpenFOAMが選択されていることを確認し、緑色の「Apply」ボタンをクリックしてください。表示されたメッシュの形状(格子状の四角形)を見て、問題がないことを確認しましょう。確認が終わったら、ParaViewを終了します。 - ソルバーの実行 メッシュが準備できたら、実際に流体計算を実行します。
cavityケースは非圧縮性層流を扱うため、icoFoamソルバーを使用します。 計算の進行状況は端末に表示され、現在の時刻、最大クーラン数、各フィールドの初期値と最終結果などが順次出力されます。計算が収束して終了するのを待ちます。 - 結果の後処理 計算が完了したら、再び
paraFoamを起動して結果を可視化します。 ParaViewが起動したら、再度「Apply」ボタンをクリックし、左側の「Properties」パネルで「Scalars」から「p」(圧力)や「U」(速度)などの物理量を選択して表示を切り替えてみましょう。色の変化や速度ベクトル(「Glyph」フィルターを使って表示できます)から、流体の流れの様子を視覚的に把握できます。
この一連の作業は、OpenFOAMを用いたシミュレーションの基本的な流れを示しています。より複雑な問題に挑戦する際も、これらの手順を基本として、それぞれのフェーズで適切な設定やユーティリティを選択することになります。
OpenFOAMの真骨頂:カスタマイズと応用
OpenFOAMの大きな魅力は、その高度なカスタマイズ性です。C++ライブラリとして設計されているため、既存のソルバーやモデルを改変したり、全く新しい機能をゼロから実装したりすることが可能です。
カスタムソルバーの開発は、OpenFOAMを最大限に活用するための鍵の一つです。基本的な手順としては、まず既存の類似ソルバーのソースコードをベースとしてコピーし、新しい名前を付けます。例えば、icoFoamに新たなスカラー場の計算機能を追加したい場合、icoFoamのソースをコピーして新たなソルバー名に変更することから始めます。
- ベースソルバーのソースコードのコピーと名前の変更 例として、
icoFoamのソースをコピーし、myIcoFoamという名前のカスタムソルバーを作成する手順を見てみましょう。 次に、コピーしたディレクトリ内のソースファイル名やMakeディレクトリ内のファイル名を新しいソルバー名に合わせて変更します。例えば、icoFoam.CをmyIcoFoam.Cに、Make/files内の記述もicoFoam.CからmyIcoFoam.Cに修正します。 - ソースコードの編集 新しいソルバーに実装したい機能(例:スカラー場の輸送方程式)を、C++コードとして記述していきます。OpenFOAMのC++ライブラリは、
fvm::div(phi,U) + fvc::grad(p)のように、抽象化された微分演算子を用いて流体の偏微分方程式を直感的に記述できるように設計されています。 - コンパイル ソースコードの編集が完了したら、
wmakeコマンドを使ってコンパイルします。 コンパイルが成功すると、実行可能なソルバーファイルが生成されます。 - テストと確認 作成したカスタムソルバーを既存のチュートリアルケースで試すことで、動作を確認できます。例えば、
pitzDailyケースのsystem/controlDictファイルを編集し、applicationエントリを新しいソルバー名(例:myIcoFoam)に変更し、ケースを実行します。実行ログを確認することで、新しいソルバーが正しく呼び出されていることを確認できます。
また、OpenFOAMはソルバーの実行中に様々な情報を出力したり、計算結果を後処理したりするための「関数オブジェクト」という機能も提供しています。これには、ソルバーコードに直接手を加えることなく、設定ファイル(controlDictなど)を介して、データのサンプリングや平均値の算出、壁面せん断応力の出力といった機能を追加できます。特に「coded」関数オブジェクトを利用すれば、ユーザー自身がC++コードを記述することなく、OpenFOAMの既存機能では提供されていない新たな機能を作成することも可能です。
OpenFOAMは、その高いカスタマイズ性と豊富な機能を活かし、多岐にわたる分野で応用されています。
- 自動車産業: 車両の空力解析を行い、空気抵抗の最適化を通じて燃費向上や騒音低減に貢献しています。
- 環境シミュレーション: 都市の気流解析や排気ガスの拡散シミュレーションに用いられ、環境負荷の低減や住環境の改善に役立っています。
- 製造業: 熱処理や材料流動の解析による製品品質の向上、加工プロセスの最適化に活用されています。また、工場内の配管流体解析を通じて、圧力損失や熱応力を評価し、設備の安全性評価や故障リスクの低減にも貢献します。
- 特殊な応用事例: 攪拌槽の非定常解析、内燃機関の燃焼解析、アルミニウム製造プロセスにおける溶融・凝固解析、さらには液滴落下によるミルククラウンの再現といった、非常に具体的な現象のシミュレーションも可能です。
導入と活用のハードルを乗り越える
OpenFOAMが持つ無制限の並列化や自由なカスタマイズといった魅力は大きいものの、初めて利用する際にはいくつかの課題に直面することもあります。
まず、コマンドラインによる操作に慣れる必要があります。計算の準備から実行、一部の後処理まで、全ての作業をコマンド入力で行うため、最初は戸惑うかもしれません。しかし、これは習熟すれば効率的な作業を可能にする強力なインターフェースです。解決策として、社内でのトレーニングプログラムの整備や、外部の講習会(オープンCAE学会などが提供しています)を活用し、操作スキルを向上させることが重要です。また、HELYXやennovaCFDといった汎用GUIソフトウェアを導入することで、コマンドライン操作の負担を軽減することもできます。
次に、計算安定性の確保が挙げられます。OpenFOAMのソルバーや物理モデルは、計算手法やモデルを忠実に実装していますが、多くの商用ソフトウェアが行っているような計算安定化のための数値的な工夫は限定的である場合があります。そのため、対象とする現象、物理モデル、計算手法について深く理解した上で、適切な解析モデルを構築することが、安定した収束を得るために不可欠となります。
さらに、プログラムソースに関するドキュメントがまだ整備途上にあるという点も課題として挙げられます。物理モデルや数値計算手法の追加など、本格的なカスタマイズを行う際には、OpenFOAMのソースコードを独自に読み解き、理解する必要が生じることがあります。しかし、これに対する支援サービスとして、受託解析、ソルバーのカスタマイズ、ソースコード調査、マニュアル作成などを提供する企業も存在します。
これらの課題を乗り越えることで、OpenFOAMの持つ可能性を最大限に引き出すことができるでしょう。特定の課題に特化した「専用シミュレーションシステム」をOpenFOAMで構築し、解析モデルの作成や解析条件の設定、結果出力などの作業を大幅に自動化することで、シミュレーションにかかる作業時間を劇的に削減し、ものづくりの現場における効率化を推進することも可能です。
未来への展望とコミュニティ
OpenFOAMは、世界中の開発者やユーザーが共同で開発に取り組む、活発なコミュニティに支えられています。このコミュニティは、常に最新の技術や研究成果をOpenFOAMに取り入れ、ソフトウェアの機能を拡張し続けています。
近年では、OpenFOAMの機能強化に加えて、AIや機械学習との連携による解析能力の向上、さらにはリアルタイムシミュレーションの実現といった、未来に向けた新たな展望も示されています。これは、製造業をはじめとする様々な分野において、シミュレーションが果たす役割を一層高め、ものづくりの進化と効率化に大きく貢献することでしょう。
OpenFOAMの公式ウェブサイトや、オープンCAE学会のWiki、さらにはGoogle Groupsのディスカッションフォーラムなど、様々な形で情報共有やサポートが行われています。最近では、ソフトウェアの検証と妥当性確認に関するコミュニティ貢献をホストする新しいパブリックリポジトリ「OpenFOAM Verification and Validation Repository」も開設され、OpenFOAMシミュレーションの品質向上と数値モデリングのベストプラクティス推進を目指しています。
流体解析という専門的な分野において、OpenFOAMは強力な選択肢となり得ます。そのオープンな性質と高い柔軟性は、研究開発から実用的な問題解決まで、幅広いニーズに応える可能性を秘めているのです。
OpenFOAM導入支援のご案内
この記事では、OpenFOAMの基本から応用、そしてその可能性について解説してきました。しかし、実際にOpenFOAMを導入し、業務で活用していくには、専門的な知識や経験が必要となる場合があります。
もしあなたが、
- OpenFOAMの導入を検討しているが、何から始めれば良いか分からない
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